<最新トレンド⑨> アメリカ小売り業界 2023年下期振り返り

今年も残すところあと二か月となりました。小売業界は来るホリデーシーズンに向け、買い付けの追加や人材の確保、イベントの準備など一年のうちで最も忙しい時期を迎えています。今日は少し早いですが、2023年のアメリカの小売業界を振り返り、トレンドや社会情勢を考察したいと思います。

1. アメリカ小売店を取り巻く状況と課題
2. アメリカ小売店のトレンド
3. まとめ



1. アメリカ小売店を取り巻く状況と課題

1-1.  根強いインフレ

いきなり暗いトピックからになりますが、マクロ的視点から。世界情勢の悪化に伴うエネルギー資源の高騰を主な要因としたインフレはとどまることを知らず、今年の消費者物価指数は年間で3.7% 増となりました。値上げを伴わない仕入れ価格の高騰は、小売企業の利益を直接圧迫することになり、各企業はオペレーションコストの削減などに取り組む必要がありました。こうした経営指数への直接的な打撃に加え、インフレ抑制のための利上げ政策によって高騰した金利債務を支払うことができず、全米3位のドラッグストアであったRiteAidが10月破産申告をしました。今後さらにこうした経済環境に耐えられなくなった企業倒産が増えると予想されています。

 一方で消費者の懐事情にも影が陰りだしています。2022年末までにアメリカの家計の総債務が約4000億ドル増加しました。アメリカ人の貯金は少なくなり、より多くの人々が生計を立てるために借金、クレジットカードの債務に依存していることがわかります。こうした背景もあり、2023年はよりコストに対してシビアな消費者が増え、Dollar GeneralFive Below という$1-$5を中心に扱う小売店が好調に推移しました。

Five Below のInstagram のポスト。面白い商材の紹介をメインに、店舗への流入を狙うポストが多い。 

 

1-2. 万引きの深刻化

 日本人の感覚からすると万引きが直接的に大手企業の経営状況にまで影響を及ぼす、なんてことはちょっと考えにくいのですが、実際にWalmart, Targetといった超大手小売企業は、深刻化する万引きによって、安全な営業を担保できず数店舗の閉鎖を余儀なくされたり、一年で$ 4億ドルの被害にあい、直接的に株価を下げるなど、大きな被害を受けています。
 アメリカでは万引きは州によって逮捕されない軽犯罪に分類され、近年はより組織化された万引きが横行しています。前述のセルフチェックアウトや、従業員の減少がより自体を深刻化させているという指摘もあり、今後小売店舗は安全な店舗運営と、コスト削減という二つの相対するような課題に取り組む必要があるといえます。

 

2. アメリカ小売店のトレンド

2-1. パーソナライズされた体験

 特にZ世代において、AIによる自分だけのショッピング体験を強く求めるようになっています。ウェブサイトやモバイルアプリで消費者の行動を研究し分析できるAIベースのソリューションが活用されています。顧客の直接的な経験としては、自分のショッピング履歴に基づくお勧めの提案などにより、お気に入りのブランドや小売店が自分と直接的につながり、理解してくれているという感覚が大切になっています。また、企業運営の場でもAIを活用した効率的な在庫管理や、Amazon Go のようなチェックアウト機能など、テクノロジーによる顧客体験と企業運用の効率化が進んでいます。


2-2.  インスピレーションを与えるコンテンツ

 特にGen Zなどの若い世代は、特定のブランドや製品を購入するためという動機付けよりも、自分の趣味や好みに生かせるような、新しいアイデアやインスピレーションを見つけるためにインターネットを活用しています。 なにかを購入させるための情報だけでなく、生活の中で何かポジティブなインスピレーションを与えることのできるコンテンツの配信が重要になっています。

Dollar General のInstagram のポスト。安いけれど、有名ブランドや面白いものが売っている、発掘しにきてね、というようなお宝探し的に楽しめる投稿が多い。https://www.instagram.com/dollargeneral/?hl=en 

Urban Outfitters の最近のポストは、カタログのような投稿よりも、インフルエンサーなどの投稿による、よりリアルで参考にしやすいものが目立つ。https://www.instagram.com/urbanoutfitters/?hl=en

 

2-3. よりシームレスな購入体験

 約5人に1人のGen Zは、「いいね」や肯定的なコメントが多い製品を購入する可能性が高いと答えています。現代の消費者はあらゆるオムニチャネルにおける購買体験に慣れているため、SNSなどでインスピレーションを受けてから、なるべくクリックが少なく、簡単に購買体験を完了させることが求められています。
 インフルエンサーのコンテンツ作成と発信能力をビジネスに直結させる取り組みも進んでいます。以下のようなプラットフォームやオンラインストアの登場と定着により、インフルエンサーが商品をレビュー、コンテンツ化し、オンラインで販売を促進するというこれまで分断されていたいデジタルフローが直結された仕組みが普及しつつあります。



3. まとめ

 小売業界だけではないですが、経済の見通しに不透明要素が多く、アメリカの消費者のお財布の紐は全体的に引き締め傾向にあるといえますが、米小売売上高としては、9月は前月比0.7%増となっており、底堅いアメリカの消費力は顕在といえます。こうしたアメリカの消費動向は、以下の二択になりつつあると言えるかもしれません。

①価格を安くする。
②消費者のライフスタイルを向上させることができる価値を持ったブランド/商品にする。

 ブランドは、ターゲットオーディエンスにとって文化的に関連性のある要素にアプローチし、SNSで売上を伸ばすためにタイムリーにインスピレーションを共有し、売上を構築する方法を見つけることが重要といえるでしょう。今度は好調な小売店とその戦略考察についてまとめたいと思います!

 

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