<体験レポート①> アメリカで人気のDtoC ブランドの脅威のマーケティング戦略

目次

  1.  はじめに

  2.  Quip レポート

  3.  Our Place レポート

  4.  参考になったことまとめ


  1.   はじめに


日本でも最近注目を集めているDtoC ビジネス(消費者直接販売型ビジネス)ですが、アメリカではデジタルショッピングの加速化に伴い、5年ほど前から一気に、卸業界を脅かす存在にまで成長しました。右のグラフでもわかるように毎年右肩あがりに売り上げが伸びています。成長率でみると、ブームのあった2019年ごろから少しずつ鈍化している傾向はありますが、小売大手のTarget WalmartCostco などは、市場でミレニアルズやジェネレーションZ世代に強い支持基盤を持つDtoC ブランドと組み、オリジナルのコラボレーション商品を打ち出すケースも一般化しており、デジタルにとどまらないその影響力は増しているばかりです。

DtoC ブランドのブランディングやマーケティング戦略などについては、日本企業がアメリカ市場展開を検討するうえでとても参考になる点が多いので、別のブログでご紹介していきます。


今回は、そんなアメリカのDtoC ブランドの中でも人気の高いOur Place というクックウェアブランドと、quipというサブスクリプション型歯ブラシブランドを実際に購入してみたので、とくに商品到着後の商品梱包における各社のコミュニケーションマーケティングの体験記をお伝えできればと思います。



2.  quip レポート

 New York 発の電動歯ブラシのDtoC ブランドであるquip https://www.getquip.com は100ミリオンドルを超える売り上げを記録し、サブスクリプション型ビジネスの代表格ともなっています。 医療費の高いアメリカでは歯医者は保険で通常カバーされないことが多く、予防治療であるオーラルケアは大きな市場規模がありました。

 quip は、$40程度からスタートでき、充電も不要で、3か月ごとに$10でRefill が完全送料無料で届く仕組みで、最近ではスマートフォンの専用アプリと連携して歯の健康具合を確認できる商品も発売されています。アメリカでもっとも信用と影響力の高いNew York Times の運営するレビューサイトWirecutter ではBest 子供向け歯ブラシにも選出されるほどの高い機能性を持ちながら、Apple 製品を思い起こさせるようなスタイリッシュで無駄のないデザインと、ポップでフレンドリーなブランディング戦略で一気に市場を席捲。その実績を買われ、Target では各店舗でquip の専門コーナーが設置され、2019年から2020年の店頭販売金額を約2倍に成長させています。

New Yorkのタイムズスクエア、地下鉄の広告。投資家が入り、膨大な広告予算が費やされている。

Target での販売の様子。専用什器が組まれ、高いブランド力が保たれている。

今回は子供用の歯ブラシのベーシックなものをオンラインで注文しました。スイカ味の(これまたお洒落な)歯磨き粉も無料でついてきます。

 商品オーダー後4日くらいで商品が到着しました。箱ではなく袋に入って到着。アメリカの運送は荒いので電子機器は大丈夫なのかな、とも思いましたが特に中はダメージはなく、きれいな状態でした。歯ブラシは以下左側のように、透明な筒状の容器に入っていて、近未来的。商品自体は太めのペンくらいで、電動歯ブラシとしてはかなりスリムでコンパクトです。

 同梱されていたものは分厚い説明書や保証書ではなく、かわいいデザインで、アイコンやイラストレーションをふんだんに使いながら、取り扱いや、ケアのTips を一枚のブローシャ―で紹介。ブランドのメッセージもふんだんに盛り込まれています。個人的に気に入ったのは、かわいらしいシールが付いてきたこと。子供はシールが大好きで、きちんと歯を磨けたらシールがもらえるというモチベーションにもつながる良い工夫だと思います。

 梱包もシンプルで、無駄な包装もないため、サステイナビリティ―に配慮していることも感じられました。徹底してミレニアルズのターゲット顧客目線でのマーケティング戦略を随所に感じることができました。商品も子供でも使いやすいサイズで、振動も細かくよく磨けていると思います。(唯一、壁に貼り付ける粘着部分のついた専用ケースは、粘着部分が弱すぎてすぐに落ちてしまい、全く無駄なプラスチックのゴミになってしまい、もう少し改良が必要感じました。。)




3.  Our Place レポート

続いて個人的に好みのブランディングでずっときになっていた Our Plate  https://fromourplace.com/Always Pan とよばれる、トレンドカラーに色付けされたセラミックのフライパンがメイン商材で、プレートやナイフ、まな板などのキッチン用品を販売しています。優れたビジュアル戦略と、徹底したターゲット目線のコミュニケーション戦略がとられており、20-40代の女性に絶大な人気を誇っています。

シグニチャーのクックパン。フライ返しとざるがセット。10色展開。

「家族、友人が集う楽しい食卓」をコンセプト軸に据えたブランディング。これまでのキッチン用品のブランドはきれいにまとめているものが多かったがOur Placeはナチュラルでリアルさを大事にしている。

 

 今回はAlways Pan と、アドオンで使い勝手のよさそうな蒸し器のセットをオーダー。オーダー後、3日程度で自宅に届きました。商品自体が大きいため、届いた箱も大きいのですがOur Place の世界観を表現した段ボールにまずワクワクを感じました。

 箱を開けると、WELLCOME TO OUR PLACE. WE SAVED YOU A SEAT. (ようこそOur Placeへ。あなたの席をとっておきました。)のメッセージが大きく書かれ、商品の各パーツがきっちりはまるようにデザインされ、大事に梱包された商品が入っていました。梱包の随所にOur Place からの顧客へのメッセージが書き込まれ、開封する楽しさがありました。

 同梱されていたのは、小さなポストカードとしおりのようなものと、食器洗い用のスポンジが一つ。レシピなどはなく、手入れや使い方の簡単なTips と、ブランドメッセージが書かれているだけ。ポストカードのデザインもお洒落で思わず飾っておきたくなるものでした。

箱を開けたところ。シンプルなデザインの中にも温かみを感じるメッセージが随所に。

使用されているプラスチックの梱包も、土に還ることを強調。ミレニアルズが気にするポイントを細かくカバー。

左から、使用やお手入れ方法の書かれたしおり、メッセージ入りポストカード、スポンジ

 
 価格帯がかなりこなれているため、(商品はこれから使っていくのでまだ評価できませんが)実際に触ってみるとそれほど高品質ではないものとわかります。質感や色はかなりトレンドを意識したものになっており、インテリアとして飾っておけるくらいかわいいものなので、料理をあまりしない人や、ビギナーに向けた導入用ツールもしくはパーティー用かな、という感じがしました。
 ただ、思っていた以上にコミュニケーション戦略は良く作りこまれており、あまり読まれないであろう内容も、事細かにかかれていたり、ブランドからのメッセージ(商品とは直接的に関係のないような内容)がかなり随所に見られ、梱包・商品を通して、ブランドが一人格として対峙し、直接触れ合ったような不思議な感覚になりました。


4.  参考になったことまとめ

 今回、DtoC ブランドの2社を購入してみて、両社ともに商品はもちろんですが消費者と直接かつ密接にコミュニケーションが取れる開梱時におけるコミュニケーションのアプローチにたくさんの工夫が見られました。今後DtoC としてブランドを一つ上のレベルに上げるためには、

① ブランディングを発揮するためのツールとメッセージ、デザインを工夫する。

② 梱包の一つ一つにサステイナビリティを意識する。

上記が重要だと改めて認識しました。特に①についてはツールの作りこみだけでなく、オペレーションの部分で流通を外部の倉庫に委託している場合(BOUSもそうですが)、梱包方法や梱包資材の指定など、ブランディングを徹底できるようなオペレーションを作りこむ必要がありそうだなと、課題を認識できました。

次のブログでは、アメリカのDtoC ブランドのトレンドをまとめていきたいと思います。



Lily

BOUS 代表。中央大学卒業後、キャノンマーケティングジャパン入社後、BtoB デジタルマーケティングの販促に携わる。2014年に単身渡米。NYにて20年以上日本企業のアメリカ市場進出サポートを行うMira Design へ入社。その後7年間、ジェネラルマネージャーとして、市場調査、企画、デジタルマーケティング、メディアPR, 営業と包括的に日本企業の海外進出をサポート。2021年独立、Bous起業。

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