<米小売の常識②>Return Policy アメリカの返品文化と消費者意識の違い
目次
アメリカの返品事情
実際に返品してみた
返品文化に慣れた消費者心理と企業側の対応
1.アメリカの返品事情
みなさんはアメリカが返品大国だということをご存じでしょうか?
日本の場合、何かを購入したものの、商品が初期不良で使えない等、よほど商品に不備がある際しか返品することはないと思います。返品する際も、買った際のレシートが必要といったように、少し手間がかかるイメージがありますよね。
しかしアメリカは違います。ちょっと商品が気に入らない、買ってみたものの自分の家に合わなかった等の消費者側の問題でも、簡単に購入したものを返品することができます。いくつかの研究によると、アメリカの小売市場の売上のうち10%の商品は返品されていると言われています。
2020/12/8の「Your Holiday Return Policy Guide(New York Times)」という記事の中でアメリカの有名企業の返品ポリシーが紹介されております。12月のホリデーシーズンは特に返品条件が緩和されるため、かなり長期間返品を受け付けていることがわかります。
・Amazon:10/1~12/31までに購入したほとんどのものが1/31まで返品可能。
・Apple:11/10~12/25までに購入したほとんどのものが1/8まで返品可能。
・Best Buy(家電量販店):10/13~1/2までに購入したほとんどのものが1/16まで返品可能。
ホリデーシーズンのため、上記の例では際立って返品期間が長くなっているものの、どの企業も日ごろから30日前後の返品受付期間を設けている場合が多いです。
そもそもこのような記事が連休前に載ること自体、アメリカに返品文化が深く根付いていることを象徴しています。
2.実際に返品してみた
渡米以降、私もアメリカで商品を返品した経験があるので、そのプロセスがいかに簡単だったかをご紹介します。
返品したのはシャワーヘッドにつける浄水装置です。渡米直後、仮住まいのサービスアパートに住んでいた際、肌荒れがひどかったため試しに買ってみました。数週間後、別のアパートに引っ越しをしたのですが、そこでのシャワーヘッドが前の家と違うタイプだったため、買った浄水装置を設置できなくなってしまい、返品することにしました。
3.返品文化に慣れた消費者心理と企業側の対応
冒頭でもご紹介した通り、アメリカでは商品売り上げのうち10%の商品は返却されていると言われています。
また、TrueShipが行った調査によると、顧客の60%以上が、購入を決定する前に返品ポリシーを確認しており、消費者にとって返品制度がいかに重要であるかがわかります。
そして、返品制度の特性により、消費者の行動も変わってくることが数多くの研究で証明されています。例えば、返品を受け付ける期間の長さは、意外にも返品数の減少につながると言われています。これは、商品を持っている期間が長いほど愛着がわくことや、商品返却の緊急性がないため、返品を先延ばしにしているうちに返品しなくなることが原因です。つまり、返品受付期間・返品に際して必要なもの(レシート等)・返品可能な商品の対象範囲等、いくつかの要素により消費者の行動が変わることを考慮して返品制度を設計する必要があります。
返品制度をうまく設計することで、そのブランドのファンを増やしたり、顧客のロイヤルティを高めることも可能です。Journal of Marketingの研究によると、商品の返品が無料でできる場合、逆に消費が158%〜457%増加する可能性があります。無料の返品制度により顧客がそのブランドにポジティブな印象を抱き、長期的にはより多くの商品を購入する可能性が増えるのです。
返品制度と同様に、アメリカで特徴的な小売サービスとして、Lifetime Guarantee(生涯保証)があります。(生涯保証については別の記事で詳しく説明しているのでそちらもご参照下さい。)
生涯保証とは家電等の少し価格帯の高い商品を買う際に、一生/耐用年数の期間内で修理・交換することを保証するものです。
生涯保証と返品制度は内容や目的は違うものの、ブランドのファンを増やせる・顧客のロイヤルティを高めることができるという点では共通しています。
また、返品制度や満足保証(一定期間使用して満足できない場合は返金・返品可能という制度)と、生涯保証はどちらも根底に「品質や性能に自信がある」ということを顧客へアピールできるという点も類似しているでしょう。
今回紹介した返品制度や生涯保証は日本ではなかなか馴染みのないサービスですが、アメリカでは消費者の意思決定の際に重要な要素であり、うまく設計すればより多くのブランドのファンを獲得することが可能です。
返品制度は数多くの研究がなされています。売っている商品の種類や価格帯に応じて、一番コストが低く効率的な返品制度が変わってくるため、どのような返品制度がいいのか調査し、設計することが重要です。