真逆の戦略転換で成功、アバクロの再興

Abercrombie & Fitch (A&F) は、かつての排他的なティーンエイジャーブランドとして非難を浴びたブランドイメージから脱却し、現在では多様性を尊重するインクルーシブなライフスタイルブランドへと進化しました。最近の業績において、A&Fは収益の増加と顧客基盤の拡大を達成しています。2023年度の売上高は約40億ドルに達し、目標の50億ドルに向けて順調に進んでいます。また、北米市場を中心に新規店舗を45店舗オープンする計画も順調に進行しています。

現代のアメリカのマーケットが求めること、戦略のトレンドてんこ盛り!のA&Fの具体的な経営戦略やマーケティング戦略についての以下にまとめます。


目次:

1. 過去の失敗

2. インクルーシブなブランド再構築

3. オムニチャネル戦略

4. 店舗のリニューアルと新規展開

5. 顧客中心のアプローチ


 

1. 過去の失敗

昔のA&Fの広告イメージ。白人のイケてるモデルオンリーの世界観。

A&Fの過去のマーケティング戦略は、特定の美的基準と排他主義的なメッセージを強調するものでした。Netflixのドキュメンタリー「White Hot: The Rise & Fall of Abercrombie & Fitch」でも取り上げられたように、A&Fは次のような問題を抱えていました:

排他的な広告:過去の広告キャンペーンでは、特定の体型や人種に焦点を当て、それ以外の顧客層を排除するようなメッセージが含まれていました。

従業員の外見規定:店舗スタッフの採用においても、外見や体型が重視され、多様性に欠ける人材選びが行われていました。

訴訟と批判:これらの排他主義的な戦略は多くの批判を浴び、訴訟問題に発展することもありました。

これらの問題を踏まえ、A&Fはブランドの再構築を行い、多様性を尊重する企業文化への転換を図りました。

 

2. インクルーシブなブランド再構築

2-1.  多様性の推進

A&Fは、かつての排他的なイメージを一新し、広告キャンペーンや製品ラインナップにおいて多様性を強調しています。様々な体型、性別、人種のモデルを起用し、幅広い顧客層にアピールしています。また、LGBTQ+コミュニティや障害者を含む多様な消費者を歓迎するメッセージを発信しています。

2-2. ライフスタイルブランドへの転換

ティーンエイジャー向けのカジュアルウェアから、20代から30代をターゲットにしたライフスタイルブランドへと転換しました。新しい商品ラインには、フィットネスウェア(YPB “Your Personal Best”の頭文字 )、ウェディングやフォーマルウェア(Best Dressed Guest)などが含まれます。これにより、顧客のライフスタイルに寄り添った提案を行っています。

2-3. リアルさを求めるインフルエンサーマーケティング

A&Fは、消費者との距離をさらに近づけるためインフルエンサーマーケティングを積極的に活用し、特にソーシャルメディア上でのブランド認知度を高めています。不自然に整った体のモデルではなく、InstagramやTikTokなどのプラットフォームで人気の様々な人種や年齢、体形のリアルなインフルエンサーとコラボレーションし、ブランドの新しいイメージを広めています。

Curve Model (ふくよかな体形のモデル)としてインフルエンサーを活用。どんな体形の人でも履き心地の良いジーンズと発信

 

3. オムニチャネル戦略

3-1. デジタルと実店舗の統合

A&Fは、デジタルと実店舗の統合を強化するため、オムニチャネル戦略を推進しました。オンラインで購入した商品を店舗で受け取る「クリック&コレクト」サービスや、店舗での体験を充実させるためのデジタルツールの導入を行っています。これにより、顧客はどのチャネルを通じても一貫したブランド体験を享受できるようになりました。

3-2. 在庫管理の改善

上記のような多様化する消費者の購買動向にこたえるため、オンラインオフライン双方の在庫管理を厳密に行い、消費者の需要に迅速に対応する体制を整えました。毎週、売れ筋商品と不調商品を分析し、在庫を最適化することで、無駄を削減しつつ、需要に応じた迅速な商品供給を実現しています。

 

4. 店舗のリニューアルと新規展開

4-1. 店舗の改装

既存店舗の改装を進め、最新のブランドイメージに合った店舗デザインに変更しました。誰でも入りやすい明るく、ナチュラルさを感じさせる居心地の良さ、照明や内装を現代的で明るいデザインに刷新し、ショッピング体験を向上させました。また、ショッピングバッグも以前のアイコニックなものから、シンプルで品のあるデザインに変化。

4-2. 新規店舗のオープン

A&Fは、新たな市場への進出とともに、北米を中心に新規店舗を積極的にオープンしています。すでに述べたように、2023年には約45店舗を新たにオープンする計画を発表し、その多くは北米市場に集中。新規店舗を通じてローカルな顧客基盤を強化し、地域密着型のマーケティングを展開しています。

左が10年前の店舗。店内が暗く、閉鎖的な外観のため外から店内はみえず、マッチョな店員がお出迎え。右が現在のお店。清潔感があり、明るく、だれでも入りやすい。

左が昔のショッピングバッグ。右が現在のもの。ブランディングの変化が一目瞭然。

 

5. 顧客中心のアプローチ

5-1. 顧客の声を反映

顧客のフィードバックを重視し、新商品の開発やサービスの改善に活用しています。定期的なアンケート調査やソーシャルメディアでのコメントを通じて、顧客の意見を収集し、それを基に製品やサービスの改良を行っています。

5-2. 忠誠度プログラムの強化

myAbercrombieという顧客ロイヤルティプログラムを導入。年間$500以上購入するとVIP になれる仕組みも用意し、リピーターの育成に注力しています。ポイント制度や新製品への専売など会員限定特典を通じて、顧客のブランドへの愛着を深めています。

 

Abercrombie & Fitchは、過去の排他的な戦略から脱却し、インクルーシブな戦略に転換することで、顧客基盤を拡大し、売上を向上させることに成功しました。多様性を尊重する広告キャンペーン、インフルエンサーマーケティング、オムニチャネル戦略など、多岐にわたる取り組みにより、現代の消費者に支持されるブランドへと進化しました。この大きな転換がA&Fの成功の秘訣であり、今後も持続可能な成長を遂げるための基盤となっており、私たちにも学ぶところがとても多い事例でした。

 

 参考:

https://www.cosmopolitan.com/style-beauty/fashion/news/a62089/abercrombie-is-changing/

https://www.modernretail.co/marketing/behind-abercrombie-fitchs-growing-influencer-strategy/

https://www.forbes.com/sites/retailwire/2022/03/29/abercrombie-teaches-a-master-class-in-reinvention/?sh=6279865881c1

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