<米小売の常識①>Lifetime guarantee「生涯保証」って何?本当に一生保証するの?
目次
Lifetime guarantee(LG)とは
LGを企業が提供する理由
LGを企業が提供する際の注意点
LGを提供する会社、保証内容、フロー
まとめ
今回は、アメリカで最近よく目にする「Lifetime Guarantee=生涯保証」について、マーケティング事例を踏まえて解説します。
Lifetime guaranteeとは
一部の企業では商品を販売する際にLifetime guarantee、つまり「生涯保証」を謳っています。一度商品を購入すれば、一生保証してくれるなんて何て夢のようなサービスなの!?と思わず購入に踏み切ってしまう方もいらっしゃるかと思いますが、この言葉、実は誤解を招く恐れもはらんでいます。というのもLifetime guarantee(以下LGと略す。)は、企業や製品の性質により条件が異なり、同じ言葉であっても企業によって保証の内容が変わってくるからです。
ではなぜ企業は消費者に誤解を招く可能性があるにも関わらず、この表現を用いるのか、企業側の視点でその理由と使用する際の注意点、LGを取り入れている企業を次の章で紹介していきたいと思います。
2. LGを企業が提供する理由
LGを提供する理由として主に2つ。1つはLGを提供することで自社製品の質の高さを消費者にアピールできること。これは間接的に「私たちは製品の品質に自信を持っているので、何かあったらいつでも交換することを約束します」と消費者にメッセージを伝えることを可能にします。
そして2つ目は購入後何か問題が起きたときには、会社のサポートがあることを消費者にアピールできること。永久保証を提供しているかどうかにかかわらず、購入後もカスタマーとの間に関係を築くことは非常に重要で、こういった取り組みが顧客ロイヤルティを高めることに繋がります。また購入後の手厚いサポートによる関係づくりは競合他社との差別化を容易にし、非常に良い口コミを引き起こす要因のひとつにもなっています。
3. LGを企業が提供する際の注意点
しかし冒頭で前述したようにLGは購買意欲を促進する言葉でもありますが、企業によって定義が異なる、紛らわしい言葉でもあります。そのため企業がLGを謳う際には大きく2点に注意が必要です。それはLGを提供する際は、LGのオファーを悪用されないよう制限を設けること、そしてLGが収益を圧迫し始めたら、いつでも保証を取り消して期限付きの保証に変更することです。ここでいう「Lifetime」とはその人の一生や、製品を所有している期間を意味するものではなく、通常は製品の耐用年数を意味するため、消費者は一度購入すれば生涯にわたって製品の修理や交換ができると解釈し、やみくもに依頼したり、誤った使用方法であっても企業が修理や交換を請け負ってしまうことがあります。
そこで企業がLGを提供する際は、どういった場合において適用されるのか十分な検討が大切です。また万が一LGが収益を圧迫し始めたら、すぐに保証を取り消して期限付きの保証に切り替えることが必要です。但し、後者は顧客の信用を低下させる恐れがあるため、適用前の検討が非常に重要になっていきます。実際に過去に生涯保証を謳っている企業が買収されたことで、生涯保証が失効し、顧客の信用を低下させてしまった事例もありました。
https://www.theguardian.com/money/2019/apr/24/lifetime-guarantee-kohler-daryl
4. LGを提供する会社、保証内容、フロー
ではLGを提供する企業はどのような条件を設定しているのでしょうか。この章ではLGを提供する企業と修理・交換の際のフロー、さらには本当にLGなのか実際問い合わせた内容や回答を紹介していきたいと思います。
1社目は「Outerknown」のS.E.Aジーンズです。この企業はカリフォルニアを拠点とし、環境と社会に対する責任を果たすことを使命とするアパレルブランドです。S.E.A.は「Social and Environmental Accountability / 社会的、環境的責任」を意味し、その名の通り製造過程を倫理的にも環境にも配慮し、21世紀のサステイナブルなファッション業界の先陣を切った会社です。S.E.Aジーンズはフィット感と品質が生涯保証されている製品で、以下の条件を満たせば裂けても割れても、Outerknownでの修理・交換が可能です。
◆保証内容(一部抜粋)
生涯保証は本製品の最初の購入者に限定しています。
欠陥のある製品を、修理または交換することが商業的に不可能であると判断した場合、当初の購入価格を返金するか、または販売する同様の製品の購入に向けてクレジットを提供します。
本製品は、通常の使用のみであり、誤用、放置、変更、または不適切な手入れがなされていないことを、Outerknownが独自の裁量で判断するものとします。
◆修理・交換フロー
以下のリンクにアクセスし、注文番号と請求先の郵便番号を入力します。
そして「S.E.A. JEANS Warranty」を選択し、近くのHappy Returnsという返品拠点にお持ちいただくか、前払いの返品用ラベルをプリントアウトしてお持ちください。
https://returns.outerknown.com
◆実際に企業へ問い合わせ
本当に生涯保証なのか?という疑問を解決するため、実際にOuterknownのカスタマーセンターに以下のように問い合わせてみました。
-問い合わせ内容
貴社が提供する条件を満たす限りは製品は耐用年数ではなく、生涯保証されるというのは本当でしょうか?
-回答(一部抜粋)
本当です。私たちはS.E.A JEANSを支持し、いかなるダメージであっても、保証します。
問い合わせにより、生涯保証される旨の回答をいただきました。しかしながらメールでの回答では全てのダメージも保証するとありますが、サイトには保証条件が事細かに明記されているのでサイトと問い合わせに対する回答には乖離があり、少し不安も残りました。実際に購入する際は、もう少し踏み込んで質問をしてみてもいいかもしれません。
◆競合他社と比較した価格差
アメリカのファストファッションブランドのGAP、サステナブルブランドを謳うEverlaneのメンズデニムと比較すると、S.E.A JEANSは価格は2から2.5倍ほど高いことがわかりました。
デニムは洋服の中でも特に流行りすたりに左右されず、またビンテージデニムとして重宝されることもあるので、$128~$168という価格帯で生涯保証が付き、さらにサステナブルに配慮されて作られた製品ということを考えるとコストパフォーマンスの高い商品だと個人的には思います。
2社目は「AWAY」のラゲージです。この企業はニューヨークを拠点とする、アメリカのオンラインおよび店頭でのラゲージおよびトラベルアクセサリーの会社です。。完璧なスーツケースを作ることを目指し、旅先で起こる問題を解決するような機能や、弾力性、美しさを兼ね備えた高級素材を使用しています。また旅を快適にするだけでなく、世界にポジティブな影響を与えることにも責任を持ち、様々な慈善団体とパートナーシップを結んでいます。
◆保証内容(一部抜粋)
JRSK, Inc.(以下「Away」という)が製造し、直接購入されたポリカーボネート、アルミニウム、ナイロン製のラゲージに適用されます。
意図された設計(航空機、自動車、列車、ボート、徒歩による旅行に使用することを想定)とは異なる方法でLuggageを使用した場合には適用されません。
修理の条件は製品の外観の機能的でない変化で、当事者による通常の荷物の取り扱いや使用中に発生し、荷物としての製品の機能を損なわないものと定義されます。
◆修理・交換フロー
以下お問い合わせページのフォームに必要事項を入力します。
なお、元の配送料は返金できません。また、無料で返品できるのは、送料無料の地域に限られます。
https://www.awaytravel.com/contact-us
◆実際に企業へ問い合わせ
本当に生涯保証なのか?という疑問を解決するため、実際にAWAYのカスタマーセンターに以下のように問い合わせてみました。
-問い合わせ内容
貴社が提供する条件を満たす限りは製品は耐用年数ではなく、生涯保証されるというのは本当でしょうか?
-回答(一部抜粋)
お買い上げいただいた製品には、生涯保証がついています。この保証は、ホイール、ハンドル、ヒンジ、ジッパー、またはシェルの機能的な損傷をカバーします。
バッグの通常の使用に影響を与えるような破損があった場合は、必ず修理または交換を行います。
問い合わせにより、AWAYは機能的な損傷であれば生涯保証されるという回答を得られることができました。筆者はホイールの故障以外は十分に使えるスーツケースを捨ててしまったことが過去にあるので、こうした保証と企業からの迅速な回答が得られたことに、一消費者としてAWAYへとても好感度を持ちました。
◆競合他社と比較した価格差
大手トラベルアクセサリーブランドRimowaのほぼ同サイズのアルミニウム製スーツケースは$1,080。一方AWAYのスーツケースは$495でした。Rimowaは最長5年保証に対し、価格が半額以下かつ生涯保証を受けられるAWAYのスーツケースはかなりお買い得であることがわかります。
逆にAmazon Basicsから販売されているほぼ同サイズ、ポリカーボネートハードシェルのスーツケースは$75。AWAYのスーツケースは$245と3倍ほど高く、Amazon Basicsの保証期間は最長4年でした。こうした他社との比較からわかることは、AWAYは高級路線の競合他社よりはお得に、しかし低価格帯を売りにする競合他社よりは割高であることがわかりました。とはいえどちらも保証期間は長くとも4~5年であるため、そういった購入後のサービスの手厚さで他社と差別化がを図っていることが窺えます。
5. まとめ
いかがでしたでしょうか?今回ご紹介した2 社のようにきちんとした修理交換条件と丁寧なアフタフォローを設けることができれば、LGは質の高さ、サービスの良さをアピールでき、購入後の顧客との信頼関係を築く意味でもとても魅力的なマーケティング手法であると言えます。
3社以外の企業も踏まえた特徴としては、LGを謳う企業はアウトドア用品、キッチン用品など耐久性が求められる製品に多く見られました。そして修繕して長く使うという発想は、サステナブルという面でも消費者に企業がアピールできるポイントとなります。日本ではまだあまり馴染みがない「Lifetime guarantee / 生涯保証」ですが優れた品質を持ち、競合よりも高い価格帯になりがちな日本製品をアメリカでマーケティングするうえで、一つの有力なマーケティング手法になりえます。ポイントを抑えたうえで、ぜひ一度取り入れることを検討してみてはいかがでしょうか?